福岡高等裁判所宮崎支部 昭和25年(う)400号 判決 1950年11月15日
被告人
安田芳雄
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中五〇日を本刑に算入する。
当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
理由
弁護人福田甚二郎の控訴趣意第一点について。
(イ) 訴因が択一的に追加されたばあいと、予備的に追加されたばあいとでは、その審理の方法も異なることは所論のとおりであつて、前者においては、その訴因のいずれから審理するも裁判所の裁量によるが、後者においては、裁判所はまずその本来の訴因について審理し、それが疑問のあるばあいには、予備的訴因について審理するのが相当であると解するが、しかし、そのいずれであるとを問はず、主文においては、いずれが一方の訴因に基く判断を示せば足りるのであるから、公判手続の過程において、検察官から訴因及び罰条の追加があつたばあい、訴因そのものが特定している限り、その追加が択一的になされたものか、または、予備的になされたものか、必ずしも、それを確定した後審判する必要のないこと多言を要しないところである。今、本件記録によれば、原審は最初詐欺罪として起訴された訴因につき審理中、検察官から択一的に横領罪としての訴因及び罰条を追加するとの請求があつたので、その請求を許し、最初の訴因については勿論、択一的に追加された訴因についても審理し、その追加された横領罪の訴因は、予備的のものであるとして有罪の認定をし、最初の詐欺罪の訴因については、原判決理由中に無罪である旨判断しているのであるが、しかも、その追加された訴因は横領罪の訴因として間然するところはないのであるから、前説示するところにより、原判決には訴因そのものを確定しないで判決した違法は存在しないから、所論のような事由ではいまだ訴訟手続に違背があるということはできない。結局、論旨は独自の見解のもとに原判決を非難するに帰着し、採ることを得ない。
同第二点について。
(ロ)リヤカーの騙取というも、その横領というも、結局リヤカーの不正領得の事実をいうので、その異なるところは単にその行為の態様に過ぎず、その基本である事実には何等の異同がないから、所論の訴因及び罰条の追加は、何等公訴事実の同一性を害するものでなく、かつ右追加により、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれはないから、原判決が所論の訴因及び罰条の追加を許して審理判断したのは相当であつて、原判決には何等刑事訴訟法第三七八条第三号に違反する不法は存在しない。論旨は理由がない。